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院長ブログ

抗てんかん薬の副作用 ~高アンモニア血症

2021年6月17日

抗てんかん薬の副作用として、「めまい」や「ふらつき」などの中枢性のものが最も頻度が高いですが、そのほかで意外と頻度が高いものに、今回お話する高アンモニア血症があります。

原因となる薬剤はバルプロ酸ナトリウム(商品名はデパケンR、セレニカRなど)です。私の診療しているてんかん患者さんは外科治療を要した難治性てんかんが多いので、多種類の抗てんかん薬を服用している方がたくさんおられます。バルプロ酸ナトリウムを服用している患者さんで外科治療後に発作が抑制されていたのに、急に軽い意識障害を認めたなどのエピソードが認められた場合は必ず、血中アンモニアを検査し、高アンモニア血症を鑑別しています。どのような特徴があるのか具体的に今まで経験し、印象に残っている2例の高アンモニア血症例を紹介します。

1例目は難治性側頭葉てんかんで外科治療を行った30歳代の女性で、術後、発作が抑制され、喜んでおられたのですが、術3か月後に術前に認めていた発作と違う意識障害が出現したということで、まずは発作の再発を疑って、脳波検査を行ったところ、焦点が存在した側頭葉には異常波は認めず、前頭葉に三相波を認めました。これにより血中のアンモニアを測定して異常高値であったので、すぐにラクツロース(血中アンモニアを下げる薬)の投与でアンモニアを低下させ、症状が消失しました。

2例目は60歳代の女性で前頭葉の脳動静脈奇形でてんかんが難治であった症例で術前からバルプロ酸ナトリウムを400㎎服用していましたが、特に副作用はありませんでした。脳動静脈奇形の切除後、3日目までは特に麻痺や失語もなく、経過は良好でしたが、突然、術後4日目から開眼はしていましたが、こちらの呼びかけに反応ができなくなりました。術後の脳内出血や脳梗塞の出現を疑ってMRIを施行しましたが異常所見はなく、バルプロ酸ナトリウム400㎎で投与量としては少量であったにもかかわらず、血中のアンモニアが高値でした。この症例も抗てんかん薬の変更とラクツロースの投与にて意識障害は改善しました。2例目のケースで感じたのは高アンモニア血症をきたすときはバルプロ酸ナトリウムの量には依存しないということでした。

バルプロ酸ナトリウム服用で無症候性の高アンモニア血症をきたしている人も多く、ほかの副作用の観点から抗てんかん薬の変更が容易ではない場合はバルプロ酸ナトリウムを継続しながら、最近は肝機能の悪い患者さんでもアンモニアを低下させる効果が高いカルニチン製剤を投与して、血中アンモニアの上昇を防ぐようにしています。