笑い発作について
先日、連続して2例の「笑い発作」でお困りの患者さんが来院されました。
第1例は8歳の患児で6歳時より睡眠中にのたうちまわるような異常運動が認められ、そのときに特におかしいことがないのに、笑いが認められるとのことでした。はじめは睡眠中に認められる過運動発作で前頭葉てんかんを疑いましたが、笑いが認められることが気になり、MRIを撮影したところ、視床下部に最大径25㎜の腫瘍性病変を認めました。これは視床下部過誤腫という先天性のまれな奇形の一種です。大体、有病率は10万人に1人の割合とされています。笑い発作が特徴的で、その他にもてんかん発作を合併することがあります。過誤腫に伴って認められる精神発達遅延や多動などの行動異常があり、思春期早発症を伴うことがあります。抗てんかん薬による薬物治療で笑い発作を抑制するのは困難な症例が多く、外科治療の適応となることが多いです。直接、過誤腫を摘出するガンマナイフ治療が以前は行われていましたが、低侵襲で有効性が高い定位温熱凝固術が開発され、本例もその治療を他院で行っていただきました。治療を担当された先生からお手紙をいただき、術後より笑い発作は抑制されているとのことで、大成功でした。
2例目は17歳の患者で1年前より、何もおかしくないのに、手をたたいてゲラゲラ笑うようになり、最近では、毎日のように認めるようになり、困って受診されました。視床下部過誤腫を疑って脳波およびMRIを施行しましたが、1例目のような異常所見はなく、失笑恐怖症を疑い、β―ブロッカーを投与したところ、異常な笑いは軽快しました。この失笑恐怖症は対人恐怖症のひとつで笑ってはいけない場面でも、笑ってしまうという症状を認め、特に過度の緊張状態になっているときに笑いがこみ上げるという特徴があります。
今回は偶然、てんかん発作である視床下部過誤腫に伴う笑い発作とてんかんとは無関係の失笑恐怖症による笑いの2症例を経験したので、その詳細をお話しました。