「貧血を起こして倒れた。」という訴えについて Part1
2021年1月12日
脳神経外科診療では軽度の意識障害やめまいで来院する患者さんで「貧血を起こして倒れました。」と訴える人がよくあります。一般には脳貧血と言われるので貧血だと思われるようですが、血液中の赤血球の中にある、酸素を運ぶ役割のヘモグロビンの濃度が低くなった状態の貧血とは違うものです。
これは短時間の一過性の意識喪失を指しており、医学用語では失神と呼ばれるものです。この失神には脳が原因のものと身体が原因のものとに大きく分かれます。今回は脳が原因で起こる失神について述べます。
代表的なものは「てんかん」でこれは私が専門に診ている疾患ですが、1000人に8~10人の割合で存在し、本邦では100万人を超え、小児から高齢者まで広く認められます。病態は脳波異常を伴う意識喪失やけいれん発作で抗てんかん薬による発作抑制を行います。
つぎに脳血管障害も失神の原因となります。高血圧症、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病から脳動脈硬化症をきたし、それが原因で脳の血流が低下するような状態が起こると一過性の意識喪失やめまいなどが生じます。特に脳の生命中枢である脳幹部を環流する椎骨脳底動脈系の血流が低下するとめまいや失神をきたします。この椎骨脳底動脈血行不全症には頚椎(首の骨)に異常をきたしているような疾患(頚椎症、頚椎椎間板ヘルニアなど)が原因となることがあります。さらに脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血や高血圧が原因の小さな脳内出血でも一過性の意識喪失をきたすことがあるので、一過性の意識喪失を「貧血?」と安易に考えずに専門医を受診しましょう。
次回は身体が原因の失神についてお話します。