側頭葉てんかんについて
抗てんかん薬を専門医に処方され、適切に調節されても、発作を抑制するのが困難な難治性てんかんがあります。その代表的疾患である‘’側頭葉てんかん‘’は焦点てんかんの中でも最も頻度の高いてんかんです。
側頭葉てんかんは、発作の前に特徴的な前兆が認められることが多く、よくみられるものは上腹部消化管の不快感(胃袋の上あたりに認める胸やけのような症状)、既視感(デジャブ―と呼ばれる過去の景色が浮かんでくる現象)、異臭(鉤発作と呼ばれる嫌な臭い)、動悸および頭痛などがあります。患者さんは、その前兆を感じた後に意識が曇ってしまうので、前兆により発作を予期して、「発作が起こりそうだ。」と家族に言ったりします。前兆の後、開眼していますが、心ここにあらず状態で意識が曇り(意識減損と呼ばれる状態)、口をモグモグ、パクパクさせたり、ぺちゃぺちゃと音を立てる口部自動症をきたすことが多いです。手で物をまさぐったり、突然、夢遊病者のように歩き出したりする状態(歩行自動症)も見られます。
私の経験した歩行自動症の患者さんで非常に驚いたことがあります。30歳代の女性でしたが、到底歩いて往来できない遠い場所へ子供とキャンプに出掛け、そこで発作が出現し、子供をキャンプ地に置いたまま、お金ももたずに自宅に帰ってきたそうで、ご主人は自宅で留守番だったそうですが、非常に驚いていました。自動改札を飛び越え、電車で帰宅したようでした。もちろん、その間、本人は意識を失っています。この側頭葉てんかんの発作は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為」と表現されます。
側頭葉てんかんには側頭葉内側部に存在する海馬(本来の機能は記憶中枢)がてんかんの焦点となっている群と側頭葉の脳実質にてんかん焦点が存在する群に大きく分けられ、前者の代表的なものは海馬硬化症による内側側頭葉てんかんです。
今回はこの海馬硬化症による内側側頭葉てんかんについて述べます。生下時や幼少時に新生児仮死、熱性けいれんなどにより、低酸素症をきたした既往のある方に多くみられます。病態としては海馬硬化症の患者さんのMRIを撮影すると左右どちらか一方、あるいは両側の海馬が萎縮して小さくなっており、MRIの撮影方法の中でFLAIR法やT2強調法により、海馬自体が白く描出されるのが特徴です。脳波所見では海馬硬化症が存在する側頭葉に異常波が検出されます。
治療はまず抗てんかん薬の投与を行いますが、非常に薬剤抵抗性で薬を2種類以上、服薬しても発作が抑制されずに慢性化しやすいので注意が必要です。薬の調節で月1~2回の発作頻度に抑制できても完全に抑制することが困難でそのような例に対しては外科治療が推奨されています。私は400例を超える側頭葉てんかんの手術を行いましたが、罹病期間(病気を患っている期間)が短ければ短い症例ほど、手術による発作抑制効果が高いことを実感していますので、早期診断および内服による早期治療を行って難治化しないようにすることが重要と考えています。